南会津(福島) 村杉岳(1534.6m)、三羽折の高手(1353m)、倉前沢山(1307.5m) 2022年4月24日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 3:08 駐車場−−3:17 林道−−4:12 橋−−4:27 白滝沢(斜面取付)−−6:19 1395m直下−−6:47 村杉岳(休憩) 7:08−−7:28 1395mを巻く−−7:44 三羽折の高手−−8:14 倉前沢山(休憩) 8:24−−8:29 主稜線を離れる−−8:56 林道(橋) 9:00−−10:08 駐車場

場所福島県南会津郡只見町
年月日2022年4月24日 日帰り
天候晴後薄曇
山行種類残雪期の籔山
交通手段マイカー
駐車場丸山スキー場下村営駐車場有(ゲレンデから離れた第三、第四駐車場が無料)
登山道の有無無し
籔の有無残雪に埋もれて無し
危険個所の有無林道のブロック雪崩と急なトラバースがリスクが高い。林道以外は比較的安全
冬装備12本爪アイゼン、ピッケル
山頂の展望北側が開ける
GPSトラックログ
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コメント丸山スキー場駐車場から林道を往復し村杉岳、三羽折の高手、倉前沢山と周回。林道の路面上を大量の水が流れる沢があって肝を冷やしたが靴が浸水せずに済んだ。雪解けが進んで水量が増えた場合、渡渉対策が必要になるかも。そこ以外は林道のほとんどはまだ雪に覆われたままで、林道を離れても雪が無い地面を歩いたのは100mに満たないくらい雪が利用できた。ただし、主稜線は分からないがそれ以外で傾斜がきつい区間は藪は薄く無雪期でも問題なさそうなほど。少なくとも主稜線は大型連休でも十分な量の雪が残っているだろう


1390m峰付近から見た村杉岳。盟主と言っていいような堂々の風格


夜中の駐車場。まだガラガラ 雪に埋もれた林道に降り立つ
路面を大量の水が流れる沢。アイゼンのまま通過 只見川本流に架かる橋。霧がかかっている
白滝沢右岸から斜面に取り付く フラッシュを焚くと川霧で真っ白
標高630m付近 標高730m付近。林道か?
標高800m付近。雪が消えた場所の椿藪 標高850m付近
標高1000m付近のブナの倒木 標高1080m付近
標高1150m付近 標高1230m付近。傾斜がきつい部分は雪無し。でも藪無し
イワウチワ 標高1250m付近。尾根直下
南に延びる尾根に乗る 標高1270m付近
標高1320m付近。ここも藪は薄い 1395m峰は西を巻いた
1360m鞍部付近から見た村杉岳 標高1380m付近
標高1480m付近 村杉岳山頂
村杉岳から見た北側の展望(クリックで拡大)
村杉岳から見た南側の展望(クリックで拡大)
山頂部を東西に走る灌木藪 灌木藪が真の最高点。三角点は発見できなかった
冷たい南風を避けるため灌木藪の影で休憩 村杉岳を後にして倉前沢山に向かう
1395m峰。左を巻いた 1395m峰を巻き終わった
1360m鞍部付近 1360m鞍部付近の藪は薄い
1390m峰付近から見た村杉岳 1390m峰への登りは藪が出ていた
1390m峰の西を巻いた 1390m峰を巻き終わった
丸山岳方面 三羽折の高手山頂
三羽折の高手山頂から見た北側の展望
三羽折の高手山頂から見た南側の展望
さらに南へ向かう。広大な雪稜が続く 振り返る
1328m峰 1328m峰から南を見ている
1328m峰からの展望(クリックで拡大)
村杉岳が遠くなった もうすぐ倉前沢山
倉前沢山山頂 本日の装備
倉前沢山から見た北〜東〜南の展望(クリックで拡大)
倉前沢山から南を見ている 倉前沢山北側の尾根屈曲点から西へ下る
標高1260m付近。この先で傾斜が急になる 標高1190m付近。微小尾根に乗る
標高1170m付近。尾根直上は雪無しだが藪も無い 標高1100m付近
標高1060m付近。南西向きの尾根を離れて北側へ 標高960m付近
標高840m付近 標高700m付近
標高650m付近 標高610m付近
林道直上 橋でアイゼンを脱いだ
下ってきた斜面 橋には積雪は無い
デブリの山 トラバース
歩きやすい区間 路面が見える場所は数えるほど
つま先立ちで走って渡った。増水時は渡渉対策が必要 トラバースの連続
最後は急斜面を上がって林道へ復帰 駐車場までもう少し
最後の登り 駐車場に這い上がると満車
奥只見ダム スキー場の臨時駐車場


 「村杉半島」の名を聞いたことがある人は、よほどの藪山派ではなかろうか。半島と言えば通常は海に突き出た岬だが、村杉半島は湖に突き出た岬と言うか山脈と表現した方がいいだろう。その湖は田子倉湖であり、そこに流れ込む只見川と白戸川に挟まれた尾根を指す。ここには半島の名を冠する村杉岳の他に猿倉山、大川猿倉山、横山、株倉山など登山道が無い名だたる山々がひしめいている。

 人工湖に面した山では利根川源流部もあるが、どちらもアプローチに難があるのが共通点。一般的には湖から尾根に取り付くことができないので、ダムとは反対側、つまり里に遠い側からアプローチすることになる。奥利根の場合は新潟県境や尾瀬方面から往復したが、村杉半島の場合はラッキーなことに奥只見ダムダムまで車道が通じているのでアプローチはいい。ただしシルバーラインが開通しないと入ることは事実上不可能であるが。

 本来は村杉半島の主要な山を全て片付けたいところだが、ネットの記録調べた感じでは村杉岳より奥の山々の登頂を成功させるには残雪期に入るより前の段階、もっと積雪が多くないと尾根上の藪が出てしまっているようであり、今では時期が遅すぎる。それに村杉半島の山は未経験であり、一度偵察を兼ねて近場の山から主要な山を見てみたいと考えていた。ついでに先週末は約23kmの長距離な山行をやったばかりで疲労がまだ残った状態であり、あまりにきつい行程は無謀である。そこで今回は村杉半島の入口付近だけ日帰りで登ってみることにした。村杉岳、三羽折の高手、倉前沢山の三山である。

 ネットの記録を参考に、ルートは丸山スキー場を起点にして只見川沿いの林道を下って白滝沢右岸尾根に取り付いてまず村杉岳に登り、三羽折の高手、倉前沢山と南下して倉前沢山から西へ下って林道に出る計画とした。この中での懸案は林道が安全に通過できる程度の残雪量か、倉前沢山西側の急斜面を安全に下れるか、倉前沢山西側斜面は地形がはっきりしないのでルートミスなく下れるか。ネットの記録では林道の危険について記述は見当たらなかったで例年なら大丈夫そう。倉前沢山西側斜面の下りも危険の記述はなかったが、地形図の等高線の密度からしてかなりの傾斜のはず。登りでこの斜面を使おうかとも考えたが、最高峰の村杉岳を最後に持っていくと最後まで登りが続くがいやらしい。やはり最初に最高峰に登ってあとは下りの方が体力的、精神的に楽である。

 悩んだ結果、当初計画の通り村杉岳、三羽折の高手、倉前沢山の順に登って最後は倉前沢山西斜面を下ることにした。この下りがどうしても危険過ぎる場合は時間が無駄になるが往路を戻ればいいだろう。急雪面の下りが想定されるので装備はマジなピッケルにグリベルの重い12本爪アイゼンとした。

 天候は先週末と同じで土曜日は一時的に冬型の気圧配置で日本海側は悪天で、日曜日は高気圧が張り出して日本海側の天候が回復するが太平洋側は崩れるとのこと。日曜日にマジで体力を使うと翌日に疲れが残ったままで月曜日の会社の仕事に支障が出るが、貴重な残雪期を有効に使うためなので仕方ない。

 土曜日はお昼過ぎに出発。この時期のシルバーラインは夕方6時〜翌朝6時まで入口のゲートが閉じるので夕方6時までにシルバーラインに入る必要がある。途中で渋滞があったりと予想より時間を食ったが夕方5時過ぎにシルバーラインに突入。今年は明らかに残雪は多めであり藪の心配はせずに済みそうだ。トンネル内では下界へ帰るスキー帰りの車と多数すれ違う。銀山平より先へ行くのは今回が初めてであったが、この区間は直線が長く走行しやすかった。

 「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」との文言がぴったりな光景で、奥只見ダム周辺は下界とは全く違って残雪が多い。しかし只見川右岸側の斜面には思ったよりも雪が少なくてちょっと心配になる。県道を進んでダムへと下る道から左に分岐するスキー場方面の広い道へ入り、大きく右カーブする箇所に広い駐車場があった。ここと一段上がった駐車場が旧湯ノ谷村営無料駐車場であり、これらより近い第一/第二駐車場は週末は有料となる駐車場である。もちろん私は無料駐車場を利用するが、その前に只見川沿いの林道分岐点を確認するためさらに先に進んだが分岐が見当たらない。カーナビで分岐を確認してそこまで戻るとなんと雪壁であった。場合によってはここに駐車してここから歩き始める計画だったがこの状態では意味が無いので無料駐車場の北端に駐車して、斜面を北に下ってショートカットで林道に出ることにした。

 シルバーライン閉鎖後は車の出入りは無いので夜中の駐車場は静かに過ごせた。到着時は小雨が降っていたが夜になると上がったものの低い雲が垂れ込めて山並みは全て雲の中で、明日朝に晴れてくれるのかちょっと心配になる。予報より天気の回復が遅れているようだ。倉前沢山西斜面の下りで視界が無かったら難易度は格段に上がってしまうなぁ。それに雪が消えて藪が出ている場所があった場合、ガスがかかっていると藪が濡れている可能性が高い。予報では夕方くらいから晴れるはずだったのだが。まさか明日まで天気が悪いことは無かろうと考えつつ酒を飲んで早めに寝た。

 先週同様に夜中2時に起床。上空にはまだ星は見えずテンションが下がるが朝飯を食ってから外を見ると雲の隙間から星空が! どうやら霧がかかっていたようで急速にそれが晴れてきたようだ。これなら安心して歩けそうだ。雨具の心配は不要だろうが風対策としてゴアは持った。歩く距離が短いので飯と水は先週の半分程度にした。

 まだ真っ暗な中をLEDライトを点灯して出発。周囲の数台の車は当然ながらまだ真っ暗なまま。スキー場はゲレンデ整備を行っているのか明かりが見えていた。駐車場のすぐ横から雪の斜面に突入するので最初からアイゼンを装着。気温はそれほど下がっていないようで今回は手袋に使い捨てカイロは入れなかったが防寒対策は問題なかった。

 駐車場の除雪した汚れた雪の山から適当に斜面を下っていく。ライトの届く範囲では林道は見えないがどこかで必ず交差するはず。アイゼンを効かせて急な雪面を下っていくと雪に埋もれた林道が登場。もし斜面と同じ傾斜で雪に埋もれていたら林道の存在が分からないだろうが、この付近は路面は水平になっていた。そして意外にも路面上にはおそらく金曜日の好天時に歩いた人のアイゼン跡があり、真っ暗な中ではルート判断にこれが大いに役立ったし心強かった。林道はほぼ全線で積雪に埋もれたままで、周囲に平坦地があったり、逆に斜面と同化するような傾斜の雪に埋まっている箇所では暗闇の中では林道の続きの判断が難しかったが、こんな時に先人の足跡で迷わずに済み、余計な時間をかけずに済んだ。

 積雪による林道のトラバースは雪質はガチガチではなく適度な締まりでキックステップが効くのでさほど危険は無かったし、デブリはあちこちにあったが大きく高巻きする必要がある箇所もなかった。危険とは違うが只見川に注ぎ込む支流が林道の路面上を流れている箇所が1箇所だけあり、他の支流はまだ雪の下だったがここだけは雪が完全に消えて流れを突っ切るしかなかった。流れの幅が広いので水深はそれほどではなくおそらく数cm程度だが、流れが強いので靴に当たるとある程度の高さまで水が上がる可能性がある。舗装路面だがここはアイゼンを履いたままでアイゼンの歯の高さ分を稼いで横断し、浸水を防止した。日が高くなって雪解けが進んで水量が増えた場合が心配な場所であり、一般的には何らかの渡渉対策をした方がいいだろう。この他は特にトラブルになりそうな場所は林道に無かった。

 只見川にかかる立派な橋を渡って只見川右岸へ移ると積雪に覆われた広大な平坦地となり、林道がどこにあるのか判別できなくなった。これまであった足跡は判別できなくなり、足跡の主は倉前沢山方面からここへ下ったのか、それともこの広大な平原の違う場所を歩いたのかは分からない。計画では帰りはここに下りてくる予定だが、まずはこの先の白滝沢を目指す。周囲は川霧に覆われてますます視界が無くなり方向感覚も無くなるが、川音を頼りに上流側へ向かった。何も見えない真っ白の中ではワンデリングしそうだったし、ワンデリングしても気付かないだろう。

 平坦地が終わりに近付いて川が岸に接近してくると林道が判別できるようになったが、やはり足跡は見られなかった。でもここまで来ればあとは上を目指せば村杉岳に到達できるので問題なし。ここまでの林道歩きは思ったよりも時間がかかってしまった。往路では林道は僅かに下りだが帰りは僅かに登りに変わるので、所要時間は帰りの方がかかるだろう。往路で約1時間20分であり、帰りは約2時間かなぁ。雪が無ければずっと早く歩けるのだが。

 どこから斜面に取り付くかであるが、地形図では白滝沢を過ぎるとしばらくは林道の山側は法面の崖マークの連続であり、白滝沢から取りつくのが正解であろうと判断して雪面に取り付く。まだ暗い時刻だし霧がかかってライトの光が散乱して先が見えにくい状態で、雪が上まで繋がっているのか、傾斜は大丈夫なのか不明だが、だめなら沢沿いに少し登ってから尾根を目指せばいいだろう。

 雪面に取り付くと上部は傾斜がやや急だが問題になるほどではなかった。ただし登り始めて100m程、さらに傾斜がきつくなった地点で雪が切れてしまい、土が露出した急斜面にアイゼン、ピッケルを食い込ませて強引に登った。傾斜が急な影響かここはほとんど藪が無かった。上を見ても傾斜がきつい場所は雪が無く、傾斜が緩んだ場所はその上なので急斜面に隠れて見ることができない。もし傾斜が緩んでも雪が無ければ高度を上げるまではしばらく雪が無いだろう。

 土の急斜面を突破して傾斜が緩むと残雪が現れて一安心。地面が出た場所もあるが大半はまだ雪に覆われている。この傾斜と標高でこの状況ならこの後の行程はほとんど雪が残っているだろう。東北の山らしくブナが大半で周囲に植林らしき葉を茂らせた木は見られない。時刻が4時半を過ぎると徐々に周囲が明るくなってライトが不要になった。どうせこの先は明瞭な尾根地形ではなく当面は広い斜面を登ることになっており、適当に上を目指せばいいので安心だ。ここでライトを収納した。

 ブナの根元を見た感じでは残雪の深さは1mも無いくらいだが、ほぼ全面を覆っている。僅かに開いた地面には椿藪が見られることもあるが、概ね藪はそれほど濃くないようだ。まだ笹は見られない。

 標高720m付近では雪に埋もれた林道らしい平らな筋を横断。その後は特徴の乏しい広い斜面をどんどん登っていく。標高1000m弱で尾根地形に乗るが標高1080m付近から再び尾根が不明瞭化して徐々に傾斜がきつくなってくる。標高1150m付近から雪が切れて地面が出た場所が見られる様になり、それらを避けて登っていく。標高1200m付近では上部一帯に雪が付いていないことが判明。その帯は左右どちらにも延びていて雪がつながった場所はなさそうなのでこのまま直進。雪がない場所は1395m峰から南に延びる顕著な尾根の西側直下の傾斜が最もきつい部分で、意外にも植生は薄く藪無しと言っていい状態で簡単に通過できた。もし同じ植生が周囲全体を覆っているようなら無雪期でも全く問題なく歩けるだろう。

 1395m峰から南に延びる顕著な尾根に乗ると、雪が無い西斜面とは対照的に尾根直上と東側は大量の残雪に覆われ、尾根東側は大きな雪庇だった。ここまでの登りはほとんどがブナの森だったが、ここからは雪庇のある右側(東側)にブナが無い広い雪稜を上がっていく様は残雪期らしい風景だ。ごく一部で尾根直上と思われる場所で雪が消えて地面が見えていたが、ここでも藪は薄かった。もしかして本当に村杉岳は無雪期でも登れてしまうかも。

 面倒なので1395m峰のてっぺんを通らずに西側を巻いてピークの北側に出ると、初めて村杉岳の姿が見える。大きな丸い山頂で威風堂々。村杉半島の名を冠する山名だけあって貫禄十分、存在感のある山容である。ここから山頂までこれまでと同じように稜線東側に巨大雪庇が連続し、西側はブナがあるが尾根直上から東側は雪原が広がる。山スキー向きの植生だがここに至るまでがブナの森なのでスキーに適しているとは言えない。

 最後は立木皆無の広大な尾根を登って村杉岳山頂へ。山頂も同じような雪原に覆われているかと思いきや、まるでモヒカン刈りのような低灌木の列が東西方向に並んでいた。なぜこんな植生なのか不思議に思ったら、この藪の列の裏側(北側)は一段下がった斜面で、藪の列が尾根のてっぺんだった。よって最高点も藪の中で、もしかしたら三角点は雪に埋もれていないかもと灌木藪の中に入って最高点付近を捜したが、残念ながら発見できなかった。どうも灌木藪の南側に三角点があるようだ。そちらは積雪で覆われているし、山頂部は平坦で明瞭なピークが無いので、雪の下の三角点を探すのは不可能である。灌木には目印や山頂標識は皆無だった。そういえばここまで登ってきたルート中に目印は1個も見かけなかったし、この後に歩いた倉前沢山までの稜線と倉前沢山西斜面でも目印は見かけなかった。ここまで目印が無い山は珍しい。

 山頂には低灌木以外は斜めになった矮小なブナだけであり展望はいいが、今日は残念ながら空気の透明度がイマイチで遠望が利かず、近場であり西側に連なる毛猛山、檜岳、百字ヶ岳、未丈が岳、丸山、東側の会津朝日岳、大幽朝日岳、丸山岳、梵天岳、高幽山、三ツ岩岳は見えているが、荒沢岳は雲の中に隠れてしまい、越後駒ヶ岳は霞んでいた。条件が良ければ後立山の爺ヶ岳から村杉半島の山々が見えたことがあったので、こちらからも後立山が見えるはずだが、今日のような条件では無理である。妙高、火打付近が全く見えないのでは話にならない。

 その代わりに将来の目標となる大川猿倉山や猿倉山は良く見えていた。猿倉山一帯は既に雪が落ちて真黒で相当の藪漕ぎは確定的で、大川猿倉山への稜線も既に雪が割れて藪が出ているように見える箇所がある。やはりもっと早い時期に入らないとこれらの山は無理のようだ。いつか登ってみたい山々だが、猿倉山の急な尾根が突破できるかが最大の難関だろう。猿倉山に雪が無いのは険しい地形で雪が早くに落ちてしまうからであろう。

 歩き始めて3時間半以上が経過しているので山頂で休憩することに。冷たい南向きの風がやや強いので「モヒカン」の藪の列の裏側で防寒着を着て風を避けて休憩。今日はこの後は基本的に水平移動や下りなので、これからはあまり体力の消耗は無い。もしかしたらこれが最初で最後の休憩になるかもしれない。今日は日曜日で明日は会社があるのでできるだけ早く帰りたいのが人情だ。  休憩を終えて出発。村杉岳山頂からは倉前沢山へと続く稜線が良く見えている。ただし、倉前沢山北側は平坦な尾根が続いているので、どこが山頂なのか良く分からない。三羽折の高手は東に飛び出したピークなので分かりやすい。いずれも尾根上はたっぷりの残雪が覆って幅広い雪の帯が延びていて、気持ちいい雪稜歩きが楽しめそうだ。

 ガスられたらいやらしいだだっ広い村杉岳山頂を後にして、これまただだっ広い稜線を南へ下っていく。1395m峰は面倒なので東を巻いてしまい、行きも帰りもてっぺんは通らなかった。1360m鞍部で尾根に復帰すると次の1390m峰への登りは尾根上に藪が見えているので、雪が残った南斜面から巻いた。

 尾根に復帰すれば正面に見えている小さなピークが三羽折の高手だ。山の名前にしては相当奇妙な部類だと思うが、その謂れは東側にある三羽折沢で間違いないだろう。

 これまで同様に東側に発達した巨大雪庇の尾根を登り切った緩やかなピークが三羽折の高手山頂。山頂の西側にはブナがあって視界を邪魔しているが東側半分は大展望。振り返ると丸い巨大ピークの村杉岳が目立ち、その右側には遠くて目立たない黒い猿倉山。南に延びる稜線には倉前沢山の平坦な尾根が見えている。あちらもここと同じく西側にブナが林立しているのが分かる。

 三羽折の高手を下ると幅広くほぼ水平な稜線が続く。ここもガスられると厄介な場所だ。1328m峰は高まりは無く大平原と言っていいような場所。ここで尾根はやや右に進路を振って広大な稜線を非常に緩やかに下っていき、倉前沢山北側肩で僅かな登りに変わり、やや左に向きを変えて倉前沢山山頂となる。

 倉前沢山山頂もだだっ広い雪原で明瞭なピークは無く、西側の離れた場所にブナが立ち並んでいる。雪原の真ん中を山頂として小休止。ここから南の稜線は高度を大きく下げてから丸山岳に繋がっているが、そこを歩く人はおそらく皆無だろう。

 さて、ここからが今回のコースの核心部で、倉前沢山北側の尾根屈曲点から西斜面を下り、南西向きの傾斜が非常に急な微小尾根を下って、途中から尾根を離れて西に向きを変えて尾根地形が無いただの斜面を正確に西に下り続けるのだ。まずは微小尾根の入口が判別ができるかどうかが関門だ。首に方位磁石をぶら下げていつでも進路を確認できるよう準備してから出発した。

 尾根の屈曲点は比較的分かりやすく、ここで西側のブナ林に入って方位磁石を見ながら西南西に下り始める。ブナが落葉していて斜面の策の様子が見えるので微小尾根らしき存在を発見できた。ぱっと見では尾根とは分からないが、尾根直上は雪が消えて地面が出ていてそれが一直線に下っているので間違いなく尾根である。方位も合っているのでここを下ることにした。地形図では標高1200m付近から1250m付近までが等高線が高密度でかなりの急傾斜と読み取れるが、実際の現場はそれほどではなく普通に前を向いて下ることができる傾斜であった。それに植生は周囲と同じくブナ林であり、危険地帯を示す針葉樹は全く見当たらない。これで2つの関門をクリアできた。

 最後の関門はこの尾根を離れて尾根形状を成していない西へ下ること。このまま尾根を下り続けると林道より南側に出てしまうので、標高1100m付近で右に進路を振る必要がある。尾根直上に地面が出ている区間は尾根の右側は半分崖状の急傾斜で、右に降りたくても降りられる状況ではないが、標高1070m付近で全面が雪に覆われるようになると右側の傾斜が緩んで雪面を右に下れるようになる。ここで尾根を離れた。

 この後は地形図通りで全く尾根地形を成していないので読図は不可能であり、方位磁石で常に西を確認してその方向へと下っていく。やがて下方に往路で霧の中でワンデリングしそうになった只見川右岸の広大な雪原が見えるようになると、橋があるはずの雪原左端を狙って下っていく。植生はずっとブナ林が続き、微妙な谷や尾根があるがどれもはっきりせず、乗り越えるのは容易だった。傾斜も若干の緩急はあるが概ね一定の傾斜が続き、地形の特徴が無いのでやっぱり読図はできない。このルートは登りで使うか、下る場合はスマホの地図で現在位置を確認しながら歩くのがいいだろう。

 只見川に架かる橋が見えたら最後の軌道修正。林道を歩く距離を少しでも短縮するためだ。最後は高さ1m程の法面気味の斜面を下って橋の近くに降り立った。下ってきた斜面を見上げても尾根地形は全く見られず、どんなルートで下ってきたのは全く分からなかった。

 橋の上は雪が無く路面が露出しているのでここでアイゼンを脱いだ。この先の林道では急雪面のトラバースがあるが、気温が上がって適度に雪が緩んでアイゼンが無くてもキックステップで対応できると予想し、ピッケルもあることだし大丈夫だろう。重いアイゼンが足先から消えると足が軽くなる。ただしザックは重くなる。

 往路では真っ暗な中で林道を歩いたので先人の足跡の詳細は分からなかったが、私と同じく12本爪くらいのアイゼン跡であった。向きは今の私と同じく帰り方向で、しっかりと歯の跡が残っていたので昨日か一昨日のものだろう。そういえば村杉岳〜倉前沢山間の主稜線では足跡は見当たらなかったが、気温が低い時間帯に歩いて跡が残らなかったのだろうか。まさか途中で諦めたので尾根上に足跡が無かったとか?

 さすがに帰り道は疲労が溜まってきて平坦な林道歩きでも雪の上は疲れた。それでも踏み抜き皆無なので相当マシな雪質と言えよう。この調子なら大型連休中は昨年のように新雪が降らない限りはワカン等のラッセル対策は不要だろう。今年はスノーシューは大活躍したが、ワカンに切り替えてからは雪質が予想以上に良好でワカンの出番は無かった。

 往路で路面を激しく流れる支流の水量は帰りも増えた感じは無く、つま先立ちで走って渡った。私の登山靴は防水機能が劣化しており、この時点で既に靴の中は濡れていたので沢水での浸水を気にする必要はなかった。大型連休前に登山靴の防水処理をやり直す必要がある。

 林道が完全に雪に埋もれて急斜面と同化した場所は予想通りキックステップが良く効いてアイゼンを出す必要はなかった。ここを通過すればあとは平坦な林道歩きだけ。いや、最後に駐車場へ登り返すひと手間があるなぁ。

 上方の雪面が汚れた個所が駐車場で、自分の往路の足跡がちゃんと残っていた。最後の最後は疲れた体に急登は堪えるが、高低差は大したことはないので無事に自分の車の目の前で駐車場に飛び出した。出発時はガラガラだった駐車場は満車状態で、これほど丸山スキー場が賑わっているとは知らなかった。

 着替えているとまだ午前10時だというのにスキーやスノーボーダーが戻ってくる姿がチラホラとあった。今日は日曜日なので早めに帰って自宅でのんびりしたいと考えるのは私だけではないのだろう。でも長野からやってきているのは私だけだろうな。

 駐車場を出てトンネルからダムへと繋がる県道に合流する地点には、ダム方面へ誘導する矢印の標識が置かれていた。これじゃ帰る方向と反対じゃないかと思ったら、これは帰る人のためではなくやってきた人のための標識であった。駐車場が満車なのでダムの駐車場に車を置いてシャトルバスに乗り換えろとの指示であった。奥只見ダムが見下ろせる場所の路肩に駐車して写真撮影。眼下の駐車場も車がたくさん駐車していた。

 

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